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ワサビ(アブラナ科Wasabia japonica)は私たち日本人の食生活になくてはならない薬味である。お寿司にワサビ、お蕎麦にワサビ、お茶漬けにワサビというように和食の和食たるポイントを示してくれるのは、忘れられない苦味と辛味、そして甘味を持ち合わせたワサビと言えるだろう。

今回紹介する研究では、アリルイソシアネートなどのワサビの根茎に特徴的なツンとした匂いを持たない,ワサビの葉の熱湯抽出物(以下,ワサビ葉エキスという)を、高脂肪食により肥満となったマウスに与えることにより,ワサビ葉エキスの抗肥満作用について調べた。

マウスを高脂肪食に5%のワサビ葉エキスを混ぜて摂取するワサビ群と高脂肪食のみを摂る対照群との2つのグループに分け,生理的検査と血液検査により,肝臓での脂質代謝に関与する遺伝子の発現や、中性脂肪を貯蔵する機能をもつ白色脂肪組織について差異を検討した。

120日間の摂取後、ワサビ群において、体重、肝臓の重さ、精巣上体の白色脂肪組織の重さの減少が顕著にみられた。ワサビ群では,肝臓の遺伝子発現において,脂肪酸の燃焼を促進するα型ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体PPARαの発現が顕著に促進され、脂質合成転写因子 SREBP-1cが顕著に抑制された。またワサビ群の精巣上体の白色脂肪組織では、食欲の調節に関わるレプチン、脂肪の代謝に関わり、脂肪細胞を増大させるPPARγ、肝臓の代謝に関わるC/EBPαの発現が抑えられ,肥満と逆相関を示すアディポネクチンの産生が顕著に促進,脂肪細胞にて脂肪酸の酸化に関与するAcoxも促進された。

これらの結果よりワサビ葉エキスは、高脂肪食摂取マウスにおいて肝臓や白色脂肪組織での脂肪の蓄積を抑えることにより、抗肥満作用を示したことが示唆された。

さて、今回のワサビは葉からのエキスについての研究だが、日常の食生活において擦り下ろして用いるのは地下茎である。ワサビの辛味は酸素と触れることにより生じるので、擦りながら空気に触れさせるように、細胞を細かく砕くことができる鮫の皮で作られたおろし器が良いとされている。更に揮発成分は早く蒸散してしまうため、食べる直前に擂り下ろすことも重要だ。お蕎麦やさんによっては、地下茎をおろし器付きで食膳に用意して、お客さん自らが擂り下ろすようにしているところもあったりする。

生ものにはワサビ、ワサビの持つ抗菌作用は私たちの生活の知恵として、活躍してくれている。この研究では,食材としてはほとんど使われていないワサビの葉を材料にエキスをつくり、これが肥満を抑制するということが示唆された。現代社会の悩みにも合った,新しいワサビの活用に期待したいものだ。

〔参考文献〕Yamasaki M, Ogawa T, Wang L, Katsube T, Yamasaki Y, Sun X, Shiwaku K. Anti-obesity effects of hot water extract from Wasabi (Wasabia japonica Matsum.) leaves in mice fed high-fat diets. Nutr Res Pract. 2013;7(4):267-272.

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