
植物療法 研究トピックス
ブドウはブドウ科 (Vitaceae)のつる性の落葉低木で、植物の名前であると同時に、人間と古くから関わりのある食品である、果実そのものの呼び名でもある。
ブドウ属は北米や東アジアに多く自生する他、インド、中東、南アフリカにも自生、日本の山野では、北海道から四国まで分布するヤマブドウ(V. coignetiae)を代表に15種が自生している。
本研究では、ヒト子宮頸癌由来の細胞株であるHeLa細胞を用いて,ガン細胞の増殖や浸潤、そして癌転移に伴い密着する細胞が離れて移動する上皮間葉移行(EMT)という現象に対する、ヤマブドウ果実由来アントシアニンの影響について調べた。
ヤマブドウ果実由来アントシアニンはHeLa細胞の浸潤及び生理活性物質のプロセッシングなどに関わるとされるマトリックスメタロプロテアーゼ-9(MMP-9)の発現を用量依存的に阻害、また創傷治癒試験においてHeLa細胞の移動性を抑制した。
更に、ヤマブドウ由来アントシアニンは腫瘍壊死因子TNFにより誘発されるNF-kB活性を抑制、EMTを抑制、細胞の癌化の過程をとらえる指標となるビメンチンや、EMT の特徴としてカドヘリンスィッチといわれる、N-カドへリン、βカテニンの発現を抑制、E-カドヘリンの消失阻害を誘起した。そしてグリコーゲンシンターゼキナーゼ3により調節されているβ-カテニン、カドヘリンの転写抑制因子であり癌細胞の転移に関わるSnailの発現を抑制した。
これらの効果はTNFで処理したHeLa細胞に限られてみられた。これらの結果より、ヤマブドウ由来アントシアニンは、IkBキナーゼαリン酸化やグリコーゲンシンターゼキナーゼ3活性に関与する、NF-kB調節遺伝子の発現や上皮間葉転換を阻害することにより、抗ガン作用を示すことが示唆された。その一方で、この効果は高濃度のTNFでは低減することも示唆された。
ブドウは、この他にも、ブドウ葉や茎に含まれるポリフェノールの一種、スチルベノイドであるレスベラトロールという成分が抗酸化作用を持つことで注目され、サプリメントの他、赤ブドウ葉乾燥エキスを原料とした、浮腫の解消のための医薬品も出てきている。
〔参考文献〕Lu JN, Lee WS, Yun JW, Kim MJ, Kim HJ, Kim DC, Jeong JH, Choi YH, Kim GS, Ryu CH, Shin SC. Anthocyanins from Vitis coignetiae Pulliat Inhibit Cancer Invasion and Epithelial-Mesenchymal Transition, but These Effects Can Be Attenuated by Tumor Necrosis Factor in Human Uterine Cervical Cancer HeLa Cells. Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine
Volume 2013 (2013), Article ID 503043, 11 pages.