植物療法 研究トピックス
.No.29 欧州ブドウ果実は,認知,記憶に関与する生化学的な調節により抗アルツハイマー作用を示す
欧州ブドウ(ブドウ科 Vitis vinifera)は,南西アジアから地中海地域,ヨーロッパ ,中東が原産とされているブドウであり,古くから人とのつながりが大きい植物で,世界で生産されているワインの原料であるブドウの大半の品種はこの欧州ブドウです。ワイン原料の他,生食したり,乾燥させてレーズンに加工されたりなど食べ物や嗜好品としておおいに活躍しています。ワインについては,いまから7千前とされるエジプトの遺跡からワインを作っていた形跡が発掘され,また米国の研究チームが古代エジプトの墓で発掘された壺にいくつかのハーブの種子がワインに漬け込まれた形跡があり,そのころにはすでに,ワインを基剤にしてハーブのエキスを抽出していたようであると発表しています。
アルミニウムは神経毒およびコリンに対する毒性を持つとしてアルツハイマー病の病因に関与していると考えられており,アルミニウム摂取は記憶と認知の障害に関連しているとされています。本研究は,アルミニウムにより誘発したアルツハイマー病への欧州ブドウ果実の抗アルツハイマー活性を検討,評価したという報告です。
まずSprague-Dawleyラットの行動に対するアルミニウムの影響について生化学的に調べました。ラットには塩化アルミニウム(100mg / kg /日)を8週間経口投与,ブドウ乾燥果実のパウダーを250mg / kgおよび500mg / kgの投与量で16週間与え,その後,Tauおよびアミロイド前駆体タンパク質の発現に対するブドウの影響について,PCR分析および脂質過酸化,炎症および抗コリンエステラーゼ活性についてどのようであるか検討しました。またラットの学習,記憶状態がどのようであるか,モリス水迷路試験により調べました。
そして,最初のアルミニウム投与はモリス水迷路試験における学習,記憶の著しい障害をきたすことが確認されたため,これに続きブドウ果実の影響を調べたそうです。
その結果,ブドウの投与により,用量依存的に有意な改善が観察され,また,ブドウの投与により,上記の生化学的パラメータへの作用が見られ,顕著な神経保護作用がみられました。この神経保護作用は,組織病理学的観察によってさらに確認されました。また,ブドウ果実はアルツハイマー病の重要な病理学的特徴であるアミロイド前駆体タンパク質およびTauのmRNA発現を阻害したことも確認され,ブドウ果実に抗アルツハイマー効果が,幾つかの視点からから検証されました。
ここ数年は,欧州ブドウの含有成分のうち,スチルベノイドのt-レスベラトロールや,OPC(オリゴメリックプロアントシアニジン)などの抗酸化作用,抗炎症作用,抗ガン作用などが注目されています。赤ブドウ葉エキスは,日本では医薬品となり,軽度静脈還流障害の浮腫(むくみ)を適応として症状を改善するとされています。